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魔女の館 (11)
(11)密かなる騒動





ざわざわと周囲がざわつき始めるのは、アルテナ・ディアドフィードの存在のせいもあるが、


もう一つは、そのディアドフィードの名をもつ少女に、気安い態度で軽口を叩く、青年のせいで


もあった。


さきほどから、多くの大物貴族に囲まれて淑やかな風体で会話をしていたアルテナを周囲は


持て囃すようにして気を使いながら接したいたのだが、突然何かに気づいたように周囲の波から


離れたかと思うと、アルテナが真っ直ぐに向かったのは、青年の下である。


そうして、どこか砕けた様子で会話を繰り広げる二人の間には、貴族同士の張り巡らされた


壁はなく、アルテナに対する青年の口調は、ディアドフィードに対するには恐れ多いものだと


思われた。




「あいつは何者だ?」


さきほどまで、アルテナの周囲を陣取り、得意げに話しをしていた貴族の一人が少し不機嫌に


そう問いかけると、周りの貴族たちも首を傾げるばかりで誰も青年、エリディアスの身分を知る


者がいない。



ざわつく中、エリディアスとアルテナは周囲を一切関さずに、気安い口調で会話を続けた。






「それはそうと、貴方いったい何処に行っていたの?」



「お前に関係ねえよ。」



むすっとした様子で、そう答えるとアルテナがふ~んとただそれだけ漏らす。



その態度に白々しく目を背けていたエリディアスが尖った口調でアルテナを睨んだ。




「ふ~んっておまえそれだけか。」


「あらだって、別にそんなに詳しく知りたいわけではないし。別にエリディアスのことだから

そこらへんぶらぶらして暇潰してただけでしょ。」



冷たく、言い切るアルテナにむっとしつつ、女に、そもそも自分より年下に振り回されるものかと


あえて、余裕ぶった態度で返答した。


「けっ、なんか分からん男らに囲まれてへらへら笑ってる奴と一緒にいたくなかったんでな。」




そう言いながら、眉間に皴を寄せつつ、そっぽを向くエリディアスにアルテナがさらりと反撃した。




「どうせ、いつものヤキモチでしょ。全く私にも社交辞令があるの。エルにばっかり


付き合ってらんないの。ちょっと男性と話しただけでむすっとされるなんて困ったものだわ。」




はぁっとため息混じりに言われ、さしもエリディアスも大人ぶる余裕がなくなる。



思わずかっとして、否定の言葉を言い募った。



「違うって馬鹿か!俺は年下に興味ねえって言ってんだろ!


だいたいまだ子供のくせに人おちょくんじゃないっての」




思わず怒鳴ると、周囲の貴族らが狼狽や憤怒の声が上がった。





思わずアルテナへの非礼に、近づいていって胸倉を掴もうとした貴族が、エリディアスに掴み


かかる寸前に、その間を奪うようにアルテナがエリディアスの懐へと入った。




「あら、私は年の割りに発達が早いから見た目なら子供だなんて言わせないわ。


だって、近づいただけでほら。エルだって真っ赤よ。」



緩やかに近づいたかと思うと、エリディアスの肩に両手を伸ばす。アルテナは確かに少女と


呼ぶには、成長した豊満な胸にすらりと伸びた手足で、どこか匂い立つような色気が漂う。


首下に絡む腕を、無造作に引き離し、アルテナを遠ざけようとするエリディアスはもしかしたら


勇者と呼べるかもしれない。それほどにアルテナには危険な色香を持っていた。




「ちょ、てめ。エルって呼ぶなって行ってるだろ!やめろ!!


誰だってそんな近づかれたらこうなるんだよ。だから近づくなって!!」







エリディアスの胸倉を掴もうとした男は、出した腕を所在なげに下ろして、ぼおっとアルテナの

色香に酔っている。



アルテナは仕方なさげに腕を下ろすと、関係ない者たちが引っかってしまった色気の放出を


留め、また少女らしい様子で少し頬を膨らませた。






「あーそう。良いわよ。全く、エリディアスにもフェンデルの半分でも可愛さや素直さがあったら


良かったのに・・・・と・・・・・あら?フェンは?」





そこでふと気づいたように少女が首を傾げる。



「は?フェンはお前と一緒だろ?」



顔じゅうに何行ってんだという疑問符を並べたエリディアスにすぅっとアルテナの顔が強張る。



「え?途中でいなくなったから、てっきり貴方といるとばっかり思って・・・・」



「は・・・?俺はずっと一人でぶらぶらしてた。って・・・・おまえいつからだ!!?」



すぅっと青ざめていくアルテナはひたとエリディアスを見つめて言った。



「もうこ一時間程前からよ。」



青い顔で言うアルテナにすかさずエリディアスは踵を返す。



「待って!!私も探すわ。」






着いてくるアルテナを自由にしておいて、とにかくエリディアスは人ごみを探した。



会場中を探し歩いてもなかなか見つからずに、元の場所まで戻ってくると、アルテナも途方もな



さげに立ちすくんでいた。






「いたか?」




ほんの少しの期待にそう問いかけるがアルテナは無言で首を振る。



「駄目。数人に聞いてみたのだけど、誰も見てないって。もしかしたら外に出たのかも・・・」





「じゃあ、俺は外探すぞ。」



私も。というアルテナとともに会場からの出口に向かった。



とても美しい煌びやかなドアを開けると、廊下に出る。入ってくる時は賑やかだった廊下は今は


静かで人通りがほとんどなかった。





「外の地図とかはあるか?」


「持っているわ。招かれた時もらった簡単なものなら。どうしよう。あの子一人でいられる


ような子じゃないのに。もしかしたら何かに巻き込まれたかも。私のせいよ・・」



困惑して、泣き出しそうな顔で言うアルテナの顔はいつもより幼く年相応に見える。



そんなアルテナにエリディアスは思わず、言った。



「つべこべ言わず探すぞ。俺も勝手にうろうろしたんだからお互い様だ。」





そう言って走り出すと、長い廊下を曲がる所で、思わぬ衝撃がきた。



どんっという音とともに、重心を失い思わず後ろに倒れる。




「痛ってぇ・・・・」




すると相手も同じような格好でぶつかった頭を抑えて痛みを堪えていた。








「申し訳ございません。前方不注意でおけがはありませんか?」



エリディアスの目の前でなんとか立ち上がった相手は、すっと自然に手を差し出し、こちらの


様子を覗う。



執事のような姿からして、この屋敷のもの、つまりはアルフォードの者だということが分かった。



しかし、執事にしてはまだ年若くエリディアスとそう年が変わらないように見える。


更にその口調は何処か焦っており、よく見ると額にびっしり汗を掻いている。何処からかずっと走


ってきたようで、こちらへの対応もアルフォードの執事にしては丁寧だとは言い難かった。





「大丈夫?」



後ろから心配げなアルテナの声が聞こえ、エリディアスは頷く。



「大したことはない。こっちも悪かった。」


差し出された手を、断るともう一度頭を下げられ、「失礼致します」という言葉とともに



足早にエリディアスたちがいた、会場の方へと走っていった。










「何かあったのかしら?」


自分達と同じく、焦った様子の執事に不安を覚えるのか、心配げなアルテナに気にするなと


一言おいて、外への廊下を進もうとしたところでぽてぽてと廊下に響く靴音がした。




曲がった廊下の向こうを歩いてくるその音の方へとエリディアスが目を向ける。



そこには見知った顔がいた。






「兄さん!!!!!」



少し泣き出しそうな顔で、エリディアスの姿を認めた瞬間走ってきたその姿に思わず


ほっと安堵の息を吐く。





走りよって、ばふっという音と共に抱きついてきた弟に思わず怒る前にほおっという息が

でた。




「フェン!!良かった無事だったのね。」




後ろで安堵のためにしゃがみこむアルテナがエリディアスと同じくほおっと息を吐く。




「うん、無事だよ。ごめんなさい勝手にいなくなって。」



申し訳なさそうにしゅんと身を縮めるフェンデルにエリディアスの怒る気も失せてしまった。




「ったく、心配させるなよ。何処行ってたんだ?」


困ったように眉を下げて上目遣いに見ていたフェンデルがそう聞かれ、如何してかぱあっと


顔をほころばす。




そうして、このパーティに来た時の緊張による悲壮感漂うような様子とはうって変わって嬉しそう


な顔でこちらを見た。





「あのね、薔薇園で迷ってたんだ。そしたらそこで会ったすごく綺麗なお兄さんに助けて


もらったんだ。えとね、アルファって言って、兄さんと同じくらいの背たけですごく優しい


くしてくれたよ。」




嬉しそうにことの詳細を話すフェンデルに分かった分かったと言いながら話しを聞くエリディアス


は、人見知りの激しい弟が会って少しの相手に気を許したことに珍しいものを感じながら、アル


ファと呼ばれる人物の話しを大人しく聞いてやった。













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【2008/08/25 01:40】 | 中編小説 魔女の館 11 | トラックバック(0) | コメント(0)
魔女の館 (10)
(10)フェンデル




ゆったりとしたいつもの歩調で歩いているのに関わらず、その歩幅の差か隣でちょこちょこ


と早足でついてくる少年の様子に気づいてからアルファは分からぬ程度の自然さで


歩調を落とした。



すると隣の少年は、ほっとしたように息をつき、けれどけして気を緩めることなく隣にぴたりと


ついてくる。少し息が荒いのは、必死でアルファの歩調に合わせて歩いていたからだろう。



どうやら迷子になっている間が余程心細かったのか、アルファの手を握る手にさえ必死さを


感じる。これを逃すともう誰もここから脱出させてもらえないとでも思っているのか、一心不乱


に自分を追ってくる姿にアルファは子供らしい素直さを感じて少し頬を緩めた。





見た目はとても可愛らしく、初めて見つけた時は女の子かとも思ったのだが、口調と一人称から



考えてどうやら違っていたようだった。



容姿から判断すれば、弱弱しく誰かに助けてもらわないと生きていけないような典型的な貴族


の子供タイプかと思っていたが、違っていたようで、もう10分程歩いているのに関わらず、文句


の一つもなく、歩調に関してもアルファが気づくまで何も言わずにひたすらついてくる所からし


ても子供特有の我侭さや貴族特有の傲慢さは欠片も覗えない。




それが、アルファにとっては好印象であり、けれど不思議でもあった。


今回のパーティに出席しているのは、貴族の中でも長い歴史を持つ位の高い貴族ばかりの


はずであり、そんな人物たちの共通点は無駄にプライドが高いところである。


アルファの嫌うその性質は、子供だからと除外されるものでもなく、自然と備わっていく特有さだ


と思っていたのだがアルファの手を握るその少年はそれとはかけ離れたところにいるようだった。


子供ながらにどこか申し訳なさそうにちらちらと覗う姿はとても謙虚で、しかし人見知りの気もある


のか、黙って歩くアルファに何か声をかけようとする仕草を何度か見せたが、何を言えばいいのか


分からずにしゅんと俯く姿は少し可愛い。





あまりにそれを何度か繰り返すものだから、面白くなり、少年に向かってこちらから声をかけて

みることにした。





「僕に何か付いてる?そんなにちらちらと覗われると気になるな。」


行き成り話しかけたせいか、びくりとしてから小動物のような仕草で、素早い反応を返し、


その後であたふたと困ったように慌てる少年が面白くてアルファはつい意地悪く追い詰めて


みた。






「何かいいたいことがあるのならはっきり言って欲しいなぁ。僕は別に不審者ではないし、一応


このパーティの関係者だから何でも質問には答えられるよ。」




すると、今度は焦ったように顔を青ざめさせて、ぶんぶんと首を振った。


「ちがっ、あの僕、不審者だなんて・・・っそんな・・・」


慌てる少年が泣き出しそうな顔でそれを否定するのでアルファはあえてそこをつつく。



「もしかして危ない誘拐犯か何かに見えたとかかな??」



わざと困ったような顔を見せると、少年は元から小さな身体を更にちぢこめて、首を横に振り


ひたすら違うと訴えた。



「あの違う。違うよ。僕・・・そんなこと!!思ってなくて・・・ただ・・」




「ただ?」




人見知りなのか、実際に自分を警戒しているのかアルファには判断しかねたが、ぶるぶる


顔を横へと振る少年の反応が何処か昔の誰かを思い浮かばせて、つい楽しくなった。





「ただ、なんでお花を持っているのかなって・・・聞きたくて・・・」




おそるおそる口を開いた少年にアルファはふと自分の手元の薔薇を見つめた。




「えぇと君の名前は?」



突然名前を聞かれ、少年は思わず目を白黒させるが、素直に答えた。



「フェンデルっ・・」



「フェンデルか。いい名前だね。この花は僕の大事な人へのプレゼントだよ。」




その言葉にほおっとフェンデルと名乗る少年が声を漏らした。



アルファは繋いでいる手を離して、もう片方の怪我のある方の手を差し出すように促す。




「薔薇はね。棘があって、フェンデルの時みたいに人を傷つけたりするでしょう。


けれどそれは自分を守るためなんだ。けして相手を傷つけようとしてあるものじゃあない。


そうだね。この花がぴったりな子にプレゼントするために僕はこれを持っているんだよ。」



フェンデルとおない年ほどの見た目の少女へと思いを馳せつつ、知らず頬の緩むアルファは


薔薇を貰った時のフレアの反応を想像しながら、その時の楽しみを募らせる。



たぶんフレアなら、いつもの無表情で迷惑げに受けとるのだろうけれど、それでもフレアの行動


はアルファにとってはどんなものであれ楽しみなのである。






きょとんとした様子で、こちらを見上げるフェンデルににこりと微笑む。



「フェンデルもきっといつかそんな日がやってくるさ。」


優しく笑いかけ、軽く頭を撫でてやるとフェンデルが「う・・」と小さく唸った。



嫌とも言わずになすがままにされる少年に、言えないだけで、少し鬱陶しいかな?



と思いつつ、アルファはまた歩きだす。



後ろからついてくるフェンデルに迷わぬようにと手を差し出すと今度は、少しの躊躇もなく


手を掴まれた。小さな手が拠り所を探すようにぎゅっと手を握る。





「そうだ、フェンデルはご両親とはぐれてしまったのかい?」




「違うよ。僕、にいさ・・・兄様とはぐれたんだよ。あとね、アル姉様・・・」



「そうか。だったらもう少しだよ。もう出口だから。僕は出口までしか行けないけどそこから


真っ直ぐ行けばすぐに帰れるから。そこまでで大丈夫かい?」



こくりとフェンデルが頷く。


「大丈夫だよ。ごめんなさい。」



申し訳なさげに、しょげるフェンデルにアルファは思わず言った。



「あー駄目。こういう時は謝るものじゃない。」



フェンデルが困った顔で横に傾けると、アルファが諭すとうに呟いた。



「子供はそういう時はありがとうって言えばいいんだよ。」



にっこり笑って、フェンデルをじっと見てやると少年は、やっと分かったようにふと顔を緩めて


子供らしい笑みをアルファに向けると、繋いだ手をぎゅっと握った。



「ありがとう。」



はにかむ笑顔を向けてからは、アルファにすっかり懐いてしまったようで、


それからはぽつりぽつりと会話を交わしながら、2人は出口を目指した。




「僕の兄さんはね、とっても優しいんだ。でも恥ずかしがりさんだからつい意地悪いっちゃう


時もあって・・だから時々酷いこと言われるの。けどね、アル姉さんが言うには好きだから苛め


ちゃうんだから気にしたら駄目だよって。」




「そうか、フェンデルとお兄さんは似てないんだね。一度会って見たいなぁ。


どうもからかいがい・・・・・いや、話しが合いそうだよ。」
















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【2008/08/24 23:39】 | 中編小説 魔女の館 10 | トラックバック(0) | コメント(0)
魔女の館 (9)
(9)薔薇園の迷子






「兄さん~兄さん何処?」






か細い声で、少年は真っ赤な花びらの隙間をひたすら進みながら彷徨っていた。



もう喉が痛いほど良く知る身内の名を呼ぶが、当の人物どころか誰の姿も見当たらない。



途方に暮れながら、涙ぐんだ目元に力を込め必死で涙をこぼさないようにしながら見渡すと



薔薇園がただっ広く見えるだけでどうすればここを出られるのか検討もつかない。






「うぅ・・・・・・なんで抜け出せないの?兄さん・・・何処?」



涙を必死で堪え、少年はひたすら薔薇道を練り歩いた。必死だった。


初めて連れられた、豪華なパーティに恐縮し、知り合いだった少女があまりにその場に


溶け込み、知らない貴族たちに囲まれていたものだから少年はその場の居づらさに外の


空気を吸いに一人出てきたのだ。





けれど、それがそもそもの間違いだった。



その後の行動が今薔薇に囲まれ彷徨い歩いている現状を作ってしまうきっかけとなってしまった。



いつの間にか自分の傍から離れて行方不明になっていた兄を心細さから探している内に



気づけば人通りのない薔薇園に足を踏み入れてしまう。






あまりの美しさに見惚れながら歩いている内に出口が分からなくなり、方向感覚の


ない少年は、それから半刻ほどその中を彷徨っている。




迷路のように絡まった蔦が進行方向を塞げば、違う道を探しそうこうしながら曲がって進んで


を繰り返す内に完全な迷子である。




こんなところで泣いてしまうのは恥ずかしいからと、涙を我慢すればするほど、出られない恐


怖感や寂しさが襲ってくる。










「いっ・・・・・・」




思わず手を引くとツーっと真っ赤な血が滲み、少年がいっそう悲壮な顔になり目元に浮かぶ


涙が我慢できずに、流れおちた。涙をながすと同時に一気に悲しさが押し寄せてくる。





もう日が落ちてきて、空は赤らみ夕焼けがとても綺麗だ。


けれど、少年の心は広い場所に一人取り残された孤独感で一杯であり、心細さで締め付


けられ暗く沈む。







誰でもいいから人に出会いたいと、少年は切実に思い、止まらぬ涙を拭いながら嗚咽を


もらす。ひくりひくりと泣いていると、思わずびくりと驚く音が前方から聞こえた。









がさっ。がさがさ。



「・・・・・・・・・!?」




思わず、ぴたりと立ち止まる。薔薇が揺れ、さわさわと音が鳴る。




少年は息を呑んでその場に立ち竦んだ。




泣いていた声も目の前の状況に怯み、口を閉ざす。





「・・・・・・・・・・・・・・兄さん?」




少しだけ期待を込めて呼んでみるが、返答はなくがさがさといまだに揺れる音が耳に聞こえる。





少年は、何か分からぬものに対しての恐怖感に身を竦め、その場にじっと立ち止まった。




音が近づく。少年のすぐ傍の薔薇の葉が揺れる。





ひくりと声を漏らすと、がさっと揺れるそこから黒いものが飛び出してきた。






「ひっわっ!!!」




思わず情けなく尻餅をついた少年の目の前、小鳥が数羽、ばさばさっという音とともに


羽ばたいていった。





呆気にとられてその様子を見上げていた少年が、驚きと緊張感、それから少しの期待を裏切られ



た気持ちで、しゃがみこんだまま身を震わせる。



ひくひくっとしゃっくりをあげながら、途方に暮れ泣きじゃくっている少年は精神的にもう限界


で、ぐずぐずと気持ちのままに泣き出した。ときおり、兄を呼ぶ声が辺りに響く。





力なくしゃがみこみ泣く少年は、だからこそ気づかなかった。羽音を響かせて飛び立った



小鳥たちを途方に暮れた目で見上げていた少年の後ろの薔薇もまた揺れていたことに。





泣きじゃくる少年の肩にぽんと冷たい手の感触があった。






「わっ!!!?」





思わず、声を上げて驚く少年はいきなり自分の肩に置かれた手に叫びそうになった。



その気配を察知したのか、肩の腕が素早い動きで、すかさず少年の口元を覆う。




「ひぃ・・・た・・・たすけ」





思わず必死で暴れようとするが口を覆う腕はしっかりと固定され、少年の口を塞ぐ。



そして恐怖感に暴れる少年は次の瞬間、静かな声音に静止された。






「しっ、叫んでは駄目、何もしないから落ち着いてくれるかい?」





その声音があまりに静かでこの状況に似合わない穏やかさを持っていたため、少年は


思わず暴れるのをやめた。



困惑ぎみに大人しくなると、ゆっくりと口元を覆う、腕が離れていく。







「こんな場所でいったい何をしているのかな?そんななりをして薔薇泥棒だなんて言わな


いだろう?」




落ち着く声音に、どこか柔らかい感じが耳に心地よく少年の恐怖心を少し和らげる。



すると、涙をみられまいとする少年の頭に優しく腕が置かれ、数度安心させるように



撫でられた。





「君はもしかして迷子?」




優しげな声音に思わず頷いて答える。何か言おうとしたが思わず言葉が詰まり、鼻をすする


だけで精一杯だった。






くすりと笑い声が少年の耳に届く。



それが少年の子供なりの羞恥心を煽り、涙を拭って顔を上げた。





「ふあっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





思わず空気が洩れるだけのため息のような声が洩れる。少年は見上げた場所に顔を



固定したまま、そのままの格好で固まった。






思わず、瞬きを繰り返し自分の目の前にいる声の主をじっと見上げた。




思わず息を呑むほど整った造作の人物に、一時思考を停止したように固まった少年はふと



寝る前にぶっきらぼうな声の兄が呼んでくれた物語に出てくる王子様が思い浮かんだ。






金髪の柔らかそうなねこっ毛に碧眼の優しげな目元。服装は真っ黒でお世辞にも煌びやか



とは言い難かったが、その姿でもなお整った顔は少しも褪せずに、凛としていて思わず



目を引く。






「どうかしたかい?」





あまりにじろじろ見るからか、不思議げな顔で見下ろされ少年は思わず困惑する。




言葉に困って、焦る少年は思わず口を噤み、じっと魅入っていた顔を逸らして、困ったように



答えた。






「お兄ちゃん・・・・・・誰??」




聞いたときに思わずぎゅっと腕を握り締め、いたっと呻いた。



薔薇の棘のせいで負った怪我がぴりっと痛む。







「・・・・・・・・・・ちょっと見せて。」









まだ子供である少年でもわかるような整った顔の青年が言うと、黙って血の滲んだ指を差し出す。






「これは酷いね。薔薇の棘がささっている。ちょっと痛いけど我慢しておくれ。」




そう言われると、少年は忘れかけていた棘の痛みを感じ、弱々しげに青年を見上げた。





「ごめん、応急処置だから少し痛むよ。」





そういわれてぎゅっと目を閉じると、手早く棘が抜かれた。一瞬痛みが走ったがとれた


棘を見ると少年は少し安心できた。



と同時に精神的な安心感も感じて一気にぼろぼろと涙が落ちてきた。気が緩んだのか



必死で殺していた嗚咽が自然と漏れ出し、しゃっくりをあげながら泣き出してしまった。






「痛かったかい?ごめんごめん。よく我慢したね。」


優しく肩をたたかれながら、その声音を聞いていると初めて会ったとは思えないほど落ち着く


安心感に少年が密かに安堵する。














少し落ち着いてきてから少年は人前で泣いてしまった自分を恥ずかしく思いなが


ら口を開いた。








「ありがとう・・・・・」



おそるおそる覗いながら、礼を述べると、優しげな笑顔でにこりと笑った。



少し周りを覗うような仕草をしながら、悩んだ後、青年は静かに手を差し出した。





「僕は、アルファ。迷子なんだね。だったら丁度薔薇園を抜けるついでだから、そこまで


送ってあげるよ。ただしあまり大きな声を立てないようにして欲しいんだけど・・・」





蒼い目が細まり、柔らかい声で優しげに言われ、少年の頬が緩んだ。



これで帰れるという安堵に嬉しくなり、同時に大きな声を出さないようという注意に気を引き締める。



何か事情があるのかなと思っただけで深くは追求しなかったが、青年はどこか


周りを覗うような仕草をとっていたので、それを不思議に思いながらも必死になって頷いた。





どこかおそるおそる、青年に近づいて覗うように見た後そろりと差し出された手を握る。







「よし、疲れてるかもしれないけど、ついてこれそうかい?」




「う、うん。大丈夫。」



こくりと頷くのを確認すると目の前の青年は少年の手を引いて歩き出した。









片手で少年の怪我のないほうの手を握り、もう片方には薔薇の花を数本大事そうに携え


アルファは薔薇園の出口へと、静かに歩んでいった。













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【2008/08/07 00:29】 | 中編小説 魔女の館 9 | トラックバック(0) | コメント(0)
魔女の館 (8)
(8)貴族の憂鬱







ドサリと音を立てて寝転がったアルファの下、白く細やかな模様のベッドが微かに揺れた。


その柔らかい素材に包まれながら、疲れた顔で天井を見上げる。


見上げる先には豪勢な装飾に包まれた光が照らし出し、足元はアルファの混じりけのない


蒼い目を映し出したような色のカーペットが敷かれている。




見慣れた自室に入るとともにアルファは引き締めていた表情を開放し、そのままベッドの



上で目を閉じた。真っ白のベッドと同じくらい白い肌の青年は豪華な部屋に見劣りすることなく



むしろ絵画の一つのように馴染んでいたのだが、その口から出たのは疲れきった一言だった。






「はぁ・・・・・・いつまでこんな茶番に付き合わなくちゃならないだろうね。」





細めた目が光りに照らされ、蒼い目が透き通った水色に変わる。親譲りのその色ははたから



見れば、ほっと息を吐きたくなる程美しく、けだるげにベッドに横になる姿は、目を奪う光景ではあ



ったがあいにくこの部屋にはアルファ一人の存在しかなかった。





当の本人は自覚なく、彼にしては珍しく気を抜いた格好で寝込んでいた。



先程のパーティの空気が余程合わなかったのか、疲れた憂鬱な表情で少し横になり窓の外を



眺める。



その顔に疲れはあるが、派手に倒れた時の具合の悪い様子は皆無だった。



それもそのはずで、周囲の人間に知れ渡っている、身体が弱く病弱な事実は元からない。



生まれつきの病的な雰囲気を生かし、パーティから逃れるためにアルファがわざと流した



ただの噂で、本人に持病などはあるはずもなかった。









げっそりとするような賛辞の目と、憧憬、それからそれに匹敵するほどの敵意の目にアルファは



精神的に疲れている。そんな中ふと思い出した。



ベビーピンクの大きな目と愛らしい顔の少女。年の割りに落ち着いた物腰と、大人びた口調が



アルファの興味心を擽り、始終無表情の顔が思い浮かぶ。







「そうだ。気晴らしに今から出掛けようかな。


フレアに何か贈り物でも持って・・・・何が喜ぶだろうか?」





ふと、思いついたことに自然とアルファの口元が緩む。


あの屋敷に行こうと思いついた瞬間から憂鬱な気持ちが晴れていく。




窓の外を見ると、もう薄っすら赤らんでいて夕焼けが美しい。この時間帯に屋敷へと入れば


さしもフレアとて帰れとは言えないだろうし、もしかしたら常に無表情を保っているフレアの驚いた


顔が見られるかもとアルファは楽しげに想像するとゆっくりとベッドから起き上がった。




けだるげな様子が消え、楽しげに代えの服を用意する。悪戯を思い付いた子供のような表情は



アルファをよく知る人物が見れば、気味悪く感じるかもしれない。それ程に珍しく、楽しげ



に見えた。






「秘密裏にエルデル君に頼もうか。それとも・・・・・・・・・・・・」



少し、考えてふと思う。もしかしたらこの時間帯、パーティに勤しむ者たちばかりで忙しいはず


なのだから、もしかしたらあの場から少し離れているこの自室の周囲に人はいないのかも



しれないと。




アルファは立ち上がり、窓の外を見下ろす。見下ろした先には人の姿はない。





「ふふ。楽しそうだな。一度やってみたかったんだ。」




エルデルに見つかれば、かっと怒って向かってくるだろう姿を想像し、くすりと笑う。



けれど、多分今から出掛けたいなんて言えば、困惑し反対されかねないだろうことを思うと



アルファにはその方法しかないように思えた。




そしてそれが一番面白いと。






ガラリと窓を開き、真っ赤に染まる夕日を眺めるとフレアの屋敷のある方角をそっと見つめる。




そして、アルファはなんの躊躇もなく傍にあるカーテンを引き裂くと手早い仕草で近くの手すりに



硬く結び下を覗いた。




「3階か・・・・・・・・・・・・まぁなんとかなるだろう。」




カーテンの長さの足りなさを気にした様子もなく、躊躇なく窓に足を乗せ、



そして飛び降りた。










その姿は幸運にも誰にも見つけられることなく、アルファは自室から姿を消した。










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【2008/08/06 21:58】 | 中編小説 魔女の館 8 | トラックバック(0) | コメント(0)
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